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memory - 田野倉プロジェクト

2006年 写真、透過性フィルム写真、ガラス、アクリル板、木、鉄、電球


戸口を出ると横なぶりの雪に一瞬立ちすくんだ。いつの間に、こんなに雪が積もったのだろう。ちょっと話し込んでいる間に、降ったばかりの雪が一面足元を覆っている。

「それでも、どうにかここまで来た」と帰り際に、おばあちゃんはぽつりと言った。学校へもほとんど通えず、若い頃から働きづめで、結婚して子供を育て、大家族を支えてきた。そのおばあちゃんのひとことが、帰る道すがら静かに胸のなかで繰り返されていく。

その年の冬、新潟県の過疎化の進む小さな村で、高齢の女性達へインタビューをして歩いていた。例年になく大雪で、積雪はなんと5メートル。何度も雪に足を取られながら、おぼつかない足取りで、おばあちゃん達の家々を回っていた。

80歳も過ぎたかと思われる、おばあちゃん達の話を聞いているうちに、どのおばあちゃんもお嫁入りの頃の話をしているときが、一番華やいで見えることに気づいた。近隣の村々から、山や谷を越えて嫁いでいる人がほとんどで、半世紀あまり前には、花嫁道中が行われていたという。

おばあちゃん達が、あたかも、嫁いだその日に戻っていくかのうようなひと時。そんな時間を一緒に過ごすうちに、彼女達が歩いた、花嫁道中の道のりを歩いてみたくなった。そして、ひとりひとりがお嫁入りした同じ季節に、同じ道のりを歩いて道々写真を撮ってみた。

それは、おばあちゃん達の視線をカメラのレンズを通してトレースしていく。そんな感じだったかもしれない。花嫁道中のさなかに、おばあちゃん達が見たであろう風景を、写真で再現する。そんな試みといえるかもしれない。私が撮った写真とおばあちゃん達の若かりし頃のポートレート。そして、おばあちゃん達から聞かせてもらった話の一部を抜き書きし、作品にまとめている。

斎藤美奈子


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「大地の芸術際 / 越後妻有アートトリエンナーレ2006」新潟